絵画はよくわからない。
何がすごいのか、全然わからない。
でもなんとなくゴッホのアルル星降る夜や、モネの睡蓮には惹きつけられる。
そのぐらいの無知な若者が読んでも心揺すぶられ、
国立西洋美術館や、オランジェリー美術館、オルセー美術館(アルルの寝室が収蔵されている)に行ってみたい、と思わせる力を持っている。強い本である。
最近の日本にはカリスマ性を持ったヒーローがあまりいない。
明治から高度成長期あたりまでの日本人のエネルギーは凄まじいものがある。
雑草精神というのか、列強に名を連ねてやるのだ、という強い意志。
第二次世界大戦後の復興しようという不屈の精神。
松方幸次郎もエネルギーに満ち溢れた人であったに違いない。
そう思うと同時に、一方で
いつの時代も人は、現状には落胆し、昔の良かった時代を懐かしむものなのかもしれない、とも思う。
本作を読むまで、歴史にはあまり興味が持てなかった。
1900年以降の近代史であっても、私にとっては
それ以前の江戸時代の出来事と同様教科書の中の出来事でしかなく、
あまり現実味がなかったのである。
しかし、本作の登場人物たちは、それこそ、ほんの少し前まで生きていた人たちだが、
彼らはまさに歴史の生き証人として確かに存在していたのである。
クロードモネという画家が確かに存在し、自宅の庭で絵の具を重ねたことが、
事実であったように。
教科書の中の出来事は確かに、現実に起こっていたことなのである。
それも、芸術、工業、経済など個々の事象は分断されているのではなく、
当時の経済や、世界情勢、技術レベル、文化の潮流など全て複雑に絡み合っているのだ。
そのような時代に生きていた人たちは一体どんな心境で日々過ごしていたのだろう。
今の私には想像できないほどに、彼らは逞しく、タフだったのであろうか。
私はなんてぬるま湯に浸かっているのだろう。と少し寂しくもなった。