小川洋子さんといえば、博士の愛した数式が一番はじめに挙がると思う。
が、私には本作の方が心に染みを残した。
ことりの小父さんは、小鳥と通じ合っている兄を支えて生きている。
兄は、小鳥の世界に生きているから、ある意味いい。
浮世離れしているけれど、本人もそこまで周りを気にしちゃいない。
小父さんも、すごく純粋無垢で、無害で、うつくしい存在である。
なのに、兄ほど吹っ切れていないためにかえって世の中の冷たさに晒される。
ゲストハウスの管理人として穏やかな日々を過ごしているだけなのに、
奇人変人のような扱いを受ける。鳥小屋の掃除の役割さえも奪われる。
小父さんに接触してこようとするのが怪しい男たちで小父さんにダメージを与えるのも辛い。
虫箱に鈴虫を入れていた老人も、小鳥を愛する小父さんと通じ合えるのかと思いきや、
鳴かなくなった鈴虫を踏み潰す。
この老人がまた少女の脂を箱に塗ったりして相当怪しい。
メジロを買いに来た男に関しては最悪で、メジロを集めて無理に鳴かせて、
鳴き合わせ会を開催して、小鳥を愛する小父さんにとっては耐えられない苦痛であっただろう。
お兄さんがポーポー語を話し始めたところから、
この兄弟は世の中の主流から外れた。
世の中の俗物的なものから外れたのはむしろ美しいことであって、
彼らは小鳥と通じることで彼らなりに穏やかで幸せな日々を過ごしていた。
兄が亡くなって、崩れたリズムをまた鳥小屋の掃除や、本を通じてまた築いていく。
その小さな穏やかな生活を、世の中が壊そうとする。
小鳥だけがこの兄弟の理解者だった。