自然科学系の大学と大学院出の作者らしい、理系の知識がちりばめられた短編集。
表題作の「月まで三キロ」が多分一番有名で、人気もあるのだろうが
個人的には星六花が印象に一番残っている。
植物も人も、生殖のために異性の気をひきつけるために着飾って美しくなるのだ、遺伝子を残すために都合のよいものを美しいと感じるようにできているに過ぎない、というのが印象的で。(言い回しは本文と若干違う)
中学生のとき、ニホンザルのお尻が赤いのは異性の気を引くためで、ヒトは二足歩行になってお尻じゃなくて胸が目につくようになったから胸が性的アピールポイントになったんだ、というような話を聞いた気がする。
同じころ、担任の現代文の女性の先生が
「女性が化粧をするのは基本的には異性の気を引くためだ」
と何かの時に言っていた。
それまでもファッションやおしゃれには興味がなく大変無頓着であったが、
それ以降は輪をかけておしゃれをする、着飾ることに対する拒否感が自分の中で膨らんだ。
結局人間は遺伝子を次世代につなぐことを主目的として存在しているその他多くの生物種と変わりはないのだ。そう言ってしまうと当たり前といえば当たり前だが。
でも自然の美しいものはそんなことは関係なしに美しい。
奥平さんの価値観には共感する。山、川、湖、空 そういう自然の織り成す風景は生殖とはもちろん関係ないけど美しい。
むしろ俗世とかけ離れているからこそ美しいのではないかという気もする。
星六花の感想はそんなところだが、
他の話を通じて感じるのは好きなことを突き詰められる人は幸せだということ。
そんなに夢中になれるものを見つけられる人は多分そんなに多くなくて、
見つけられた人はとても幸せなんだろう。
見つけたって一生追いかけられるとも限らないしね。